中山可穂『マラケシュ心中』:不幸が好きな人

マラケシュ心中 (講談社文庫)

マラケシュ心中 (講談社文庫)

 自分から不幸になることを密かに望んでる人はいる。

 破滅願望と言ったらいいんだろうか。あなたの周りにもそんな女性はいないだろうか。(というかこの本を教えてくれたのはそういう女性だった)。そんな女性が主人公の緒川絢彦(♀:男名のペンネーム)と名乗る詩人である。絢彦の視点を通して進んでいくこの物語は、同性愛を中心としてどんどんジェットコースター式に破滅に向かっていく。絢彦は無意識の内に自分が幸福な状況にいることは分かっていながらもよりも、強く、そして長く自分の感情が揺さぶられる不幸という状況を求めてしまうらしい。そーいう自分の感情のうねりを絢彦は詩人らしく「愛」と呼ぶわけだがこれが本当に愛と呼べる物なのかはおいといて、その結果日本人からしたら世界の果てとも言えるマラケシュまで行っちゃうわけだ。さすがに絢彦級の破滅願望を抱いている人はそういないだろう。

 この本の面白さは読み終わった後、意地悪な想像に駆り立ててくれるところだ。物語は終わりこそハッピーエンドになっているわけだけど、不幸の中に喜ぶ様にして飛び込んでいく彼女の姿を見届けてきた読者としては、この女がこんな幸せで満足するわけねーだろ、この後どうやらかすんだ?と期待してしまうのである。『マラケシュ心中』の続編はないらしい。だから読者の想像に任せてくれていると考えたいところだが、次は相手の女性の「死」ぐらいしかない気もする。

 この本を教えてくれた女性は大絶賛していた。どーしてかは聞きそびれたけど。